畳職人爺
投稿日:2013/10/18アパートの和室にベッドを設置する際に、
畳とベッドの違和感に笑えて、眠れない夜を数えた過去があります。
その時に苦肉の策として、畳の上に絨毯を敷いて、和を覆い隠す作戦で乗り越えました。
それから、覆い隠した事も忘れて、
のほほんと過ごして今に至ります。
先日、寝室の端を歩いた時に、
足の裏に違和感を感じました。
寝室の端には、災害時の持ち出し用の鞄が二つと、2リットルの水が6本置いてあるのですが、
それらの周辺から妙なフガフガ感がしたのです。
「何事ぞ」と思って、何年かぶりに絨毯をめくると、
畳が黒と白と茶色になっていました。
臭いから判明したのですが、カビが発生していたのです。
奇しくも三色のカビは、各荷物の下ごとに配置していましたので、
逆に、災害が無かったが故の災いと言う事になります。
畳の表面は腐ってただれており、絨毯の裏にもカビが侵食し、
もはや例え雑巾でゴシゴシ拭いたとしても、どうにもならない状態でした。
仕方なく、知り合いから畳屋を紹介して貰い、
「オモテガエ」「ゼンガエ」等の業界用語を乗り越えつつ、
一畳を交換に来てもらう発注になりました。
畳屋が来る前に、絨毯を剥がして捨て、
よくよくカビた畳を観察すると、
その畳はただの長方形では無く、
長方形の一角が柱に合わせて四角くカットされている
特殊な形状である事に気付きました。
和室は六畳となっていましたが、
厳密には約5.75畳だったのです。
そう言えば、絨毯の上に掃除機をかける時は毎回、
出っ張りを邪魔に感じてましたが、
畳の特殊な形状にまで思いが及びませんでした。
しばらくすると、畳屋のお爺さんがやって来ました。
お爺さんは交換する畳の形状を見て、「ヘリカットせなアカンな」と言いました。
畳を持ち帰って、それに合わせて加工をするのだが、隙間を埋めねばならないとも言いました。
何にせよ、「はよ持ち帰って、はよヘリカット加工して、はよ持って来いよ」と思っていると、
隙間の長さをメモするのに、ペンを貸してと言い出します。
ボールペンを渡そうとすると「マジックがええな」と言うので、
お望み通りのマジックを探して渡すと、
お爺さんはマジックを畳に走らせメモしました。
そして畳を持ち上げた時に、動く何匹かの虫を発見してしまいました。
「これはシロアリやな」と言い、「ウチはシロアリ駆除もやっとる」と営業をしてきましたが、
賃貸ですので、そこまで借り手がするのはどうかと思い、
「管理会社に言うわ」と伝えると、
「シロアリはほっとけばおらんくなる」
「え?」
「環境が変わればどっかへ行く」
「どこへ?」
「知らん、隣とか」
と言い残し、畳を担いで帰って行きました。
畳の一部無い部屋で、
シロアリに食い散らかされた部屋で、
ベッドと違和感のある部屋で今夜は眠ります。
明日の夕方には、管理会社からのシロアリ部隊がやって来るそうです。