水野水野

投稿日:2013/10/20
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昔、2時間ドラマのエキストラの仕事がきました。
ドラマ撮影の現場を体験するのも良いかと、
「あいよ」と即答で承諾し、
他のエキストラ達に交ざって、事前の説明を聞いてました。
水野美紀だか真紀だか誰だかが、
家業が老舗の何かを営む家に、嫁いでアレコレある、そんなあらすじでした。
当時の私はテレビを買う資金も無く、
幼い頃から、ドラマを見る習慣も無かったので、
説明は何一つ理解できてませんでした。
やがて髭でサングラスの男が遅れて一つ空いていた前の椅子にドッかと着席し、
エキストラ一人ずつを目の前に立たせ、歩かせたり、回転させたり、喋らせたりし、
「君は通行人D」や「友人A」や「店員C」と、
配役を振り当てだしました。
どうやらエキストラにもランクがあるらしく、
他の方々は、画面に少しでも長く映れる役を目指し、
少しの動きでも、多大なアピールを試みていました。
中には一人で「通行人E」と「野次馬A」と「店員B」のように、
一人三役を兼ねる大抜擢の人も誕生するので、
緊張感は高まります。
やがて私が呼ばれましたが、
何故かアピールする機会を与えられる間はなく、
『アナタはコチラです』と、チンピラB役を振り当てられました。
全員の役割が決まり、当日の集合時間や服装は自前であるとかギャラの支払い方法なんかを説明され、解散となりました。
帰り道に前を歩く「お手伝いA」と「宅配A」が
『役作り頑張らなくっちゃ』と言ってました。
当日、少しでもチンピラに見せようとワードローブを開きましたが、
いかんせん服が無いので、普段着で現場へ向かいました。
台本によると「チンピラB」の出番は、
商店街で水野にイチャモンを付け、
それを旦那役が撃退する出会いのシーンでした。
台詞もアップもあり、初ドラマとしては上出来らしいのです。
他のシーンの撮影が押してるとかで、
待機場所のテントで座ってましたが、あまりに退屈でコッソリ見に行きました。
人だかりを掻き分け、最前列に進むと、
髭サングラスが『ヨーイ、スター』とか『カット』とか『髪直して』と、アレコレ指示を出してました。
人だかりが厚みを増して、もはや戻れ無くなったので、
傍らのチェアーに腰を下ろして撮影を見守ります。
やがて『OK』となり、
私の横に一人の女性が近付き立ち尽くしていました。
『何?』と聞くと、泣きそうな顔でどこかへ行き、
男性を連れてきました。
再度『何や?』と聞くと、
男性が『そちらはウチの水野の席でして…』と言い出します。
イラッとして『名前でも書いてあんのか!』と叫んで、チェアーの背を見ると「水野○○様」と貼ってありました。
そして『ウチの水野が怯えるから』とのゴリ押しで、
急遽配役が差し替わり「チンピラB」は「通行人」に格下げになり、
撮影地点から、遠く離れて歩いただけで終了しました。
いまだにあれは、水野美紀だか水野真紀だか坂井真紀だか酒井美紀だか誰なんだか解りません。


カテゴリ:出会い