伊勢物語

投稿日:2012/10/29
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中学生まで私の都会は伊勢でした。
信号機が沢山あり、本屋があり、映画館やデパートが聳え、人や車がうごめいて、正にコンクリートジャングルの象徴でした。
私の故郷の様に、窓を開けると潮の匂いがしたり、防波堤の上でウツボを干したりはしていません。
「のう」とか「あばばい」など決して言わずに、皆が標準語を操っていました。
後にそれらも方言と知りましたが。
小学生の時に一学年上の従兄弟のゆーやんと、ゆーやんの母親の三人で伊勢に来た事があります。
叔母は車の運転が苦手で、町内でしか運転出来ないので、バスに揺られて駅前に降り立ちました。
目的はガンダムの映画を見る事でした。
『めぐりあい宇宙』で『宇宙』と書いて『そら』と読ませるタイトルです。
迷子にならない様に、三人で手を繋いで映画館へ向かいます。
叔母が店で道を聞いてる間も、二人手を繋いで待っていました。
余裕を持たせたスケジュールのハズが、ようよう映画館に到着した時は、上映間近でした。
チケットを買って、カーテンをくぐり抜け、暗闇に入り、三人が並んで座りました。
ワクワクしている二人とは対照的に、
叔母は「疲れた」と言って、着席後すぐに目を閉じて眠る態勢に入ります。
スクリーンではCMに続いて、他の映画の宣伝が始まりました。
最後は『キャンディキャンディ』で、
「ソバカスなんて気にしないわ」と歌っています。
その流れで物語が進行していきました。
15分程経ち、ようやく二人は「これは違う」と気づきます。
叔母を揺すって起こし、スタッフに聞きに行かせると、
案の定ガンダムは隣の部屋で上映していました。
「まあこの娘で我慢しーないさ」と男心を無視した発言に、
一致団結して反対し、叔母を交渉させて、無事に隣へ移動する事が出来ました。
ゲルググやらジオングやらを見て、途中からでしたが大満足です。
映画館を出て駅前に戻り、バスに乗る前に
「あのハンバーガーってのを食べてみたい」と二人の願いを、
昼寝明けと適度な運動で上機嫌の叔母に伝えました。
「え・え・わ・よ」とハミングしながら先頭に立って歩き、隣のドーナツ屋に入りました。
店員に「ポテトは隣です」と言われている叔母。
私が初めて『他人のフリ』をした記念の日となったのです。


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