足湯之男

投稿日:2013/05/29
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某有名温泉地で観光をしてきました。
日帰り入浴や、あちこちに点在する足湯など、
温泉地ならではの楽しみがある所です。
もちろん宿もたくさんあり、
町をうろつく大多数が今晩付近の宿で一泊するのだろうと思われます。
足湯には様々な客が足を突っ込み、旅情を楽しんでいます。
私も同様に足を突っ込み旅情を楽しみつつ、
隣に座った知らない子供をかまっていました。
最初は誰も入っていませんでしたが、一人二人と増え、
最終的には「私も入りたいな・・・」と視線を送る人も出てきたので、
心優しい私としては場所を譲ることにしました。
タオルで足を拭いていると、灰色のシャツに灰色のズボンでコーディネートした、
若い男が足湯をしげしげと眺めています。
大抵、観光地ですので家族連れであったり、カップル同士であったり、
友達同士であったりと何らかの同行者がそばにいたりしますが、
その灰色男の周りには特に同行者が見当たりませんでした。
しきりに足湯を眺めては何やらブツブツつぶやいています。
時折、あごの方に手をやり何か考え事をするかのようにうなづいたりもしています。
ただ、一向に足湯に浸かろうというはしません。
私以外の人も足湯から退散をし、場所も空いているのですが入ろうとしません。
たぶんですが、灰色男は入りたいのだと思います。
どういった経緯でこの温泉地に来たのかはわかりません。
同行者がいるのかもしれませんが、あきらかに足湯には1人できています。
そして灰色のズボンにはハンカチも入っています。
入ろうと思えば入れるけれど、どのように入ればいいのか画策しているのだと思います。
しきりに眺め、時々何かをつぶやき、うなづいては何かをつぶやく行為は、
「この足湯は本当に温泉なのだろうか、効能が書いてある表は見当たらないな。
うむ、どうしようかな、入ろうかな。 でもただのお湯かもしれないぞ。
うむ、どうしようかな、皆はこの事には関心はないのだろうか、うむ。
でもせっかくだから入ろうかな。 うむ、もう少し人が引いてからにしようかな。
うむ、私は1人でも別に平気なのだが、うむ、できれば人がいない方がいいな。
よし入ろう、おや、私が座ろうとした場所に人が来てしまった。
うむ、仕方がない、もう少し待つとしよう。 うむ。」という自分を演じているのでしょう。
淋しいのです、1人で足湯は。
心優しい私は灰色男の一部始終をしかと見つめ、心でつぶやきました。
「早よ、入れや」


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