秘伝之味

投稿日:2014/06/29
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創業以来、注ぎ足し注ぎ足ししてきたタレ。
災害が起こったら、何はともあれ持ち出す家宝のタレ。
よくそんな「秘伝のタレ」の存在を耳にします。
私が耳にする度に思うのは『本当にうま味だけのものなの?』という事です。
うちには歴史があるんです、と言わんばかりの「秘伝」という言葉。
その辺の店とは違うというのをタレに託しています。
その件のタレをツボに入れてるとしましょう。
店のオヤジがツボのフタを、今開けました。
そこへ一匹の蛾が飛び込み、水面でパタパタともがき苦しみます。
『しまった』と思うのも遅く、あきらかに蛾は秘伝のタレに浮遊しています。
慣れた手つきで蛾を取り除き、とりあえず表面のタレだけ捨て、
見て見ぬふりをしてタレを奥へしまいに行きます。
秘伝のタレは宝ですから、バイトが触るのは禁止されています。
蛾がいた痕跡はタレには付いていませんが、
タレの中には蛾が泳いだ時間がまぎれもなくあった訳です。
またある時は風邪気味のオヤジが、
鼻水を垂らしクシャミを連発しながら働きました。
蚊に食われたケツを、ボリボリと掻いた日もありました。
注ぎ足しの場合、ツボを入れ替えて洗浄する事がありませんから、
創業当初からのプチハプニングが、うま味と共に蓄積され、
普通には出せない次元に至っているのではないでしょうか。
バックグランドをいちいち考えてしまうと、
その秘伝のタレには言い知れぬ恐怖を感じてしまいますが、
その事を一切排除すれば美味しいものだったりするのでしょう。
私としては、秘伝のタレは注ぎ足しで進んでいっても良いと思うのですが、
できれば容器は毎回入れ替えて洗ってほしいと思ってしまいます。
別に潔癖と言う訳ではありません。
ただ、タレ以外の歴史をあまり感じたくないだけなのです。


カテゴリ:グルメ